アイカ工業株式会社 ジョリパット施工例コンテスト

コンテスト概要入選作品審査総評第2回ジョリパット施工例コンテストのTOPへ戻る 審査総評

審査総評

審査委員長 押野見邦英(ケーオーデザインスタジオ代表)

審査委員長 押野見邦英昨年は住宅に限定していたが、今回は応募対象を広げてのコンペとなった。前回の経験からジョリパットという広く親しまれた素材は下地を選ばず便利で小回りが利く反面、ありふれたものになり易いので、今回はどのようにしてこの日常的な素材を使いこなし、新たな表情を見せるか期待していたし、果たして今の時代そうした作品の応募があるのか密かに心配していた。
しかし今回は224件もの応募があり、しかも意欲的な作品が多く、私達の心配は全くの杞憂に終わったのは幸いであった。審査員4名が予め選んだ20点の作品を持ち寄っての審査で、一票のみの作品一つ一つについて先ず審査され、他の審査員の支持が得られないものが審査対象から外された。
この段階で応募作品は住宅、商業施設、その他の建築、そしてインテリア作品に大別され、二票以上の支持を得た作品について設計趣旨やプラン等を参照しながら吟味が重ねられたが、早くも最優秀賞となった「岡本ハーベスト保育園」と優秀賞の「赤坂の家」が抜きん出た作品であることが認識されることとなった。
前者は神戸の震災を受けた地に新たに計画された保育園で、白い城壁のような壁面とその上に載せられた小さな部屋からなるジョリパット仕上げの外壁ファサードが何より印象的で、それらの背後には登り庭となる園庭が隠され、保育室のセキュリティーと開放性の両方を満足させるためのデザインであったことがうかがえて多くの賛同を得ることとなった。小さいながらも変化に富む空間構成で、スカイライトやスリット窓を利かせた自然光がジョリパットの内壁を柔らかく照らして、保育に相応しい場を造り出していることが多いに評価された。
後者の住宅作品は何よりもガラスの階段から漏れる光がゆず肌仕上げ仕上げの内壁を照らす広告写真かと見まがうばかりの出来映えに魅せられたが、建築全体のデザインは巧みであるが、既視感を拭えず前者の創意工夫に富むデザインには僅かに及ばないと判断された。

 

審査委員 大森晃彦(月刊新建築 編集長)

最優秀賞を受賞した岩田章吾さんによる「岡本ハーベスト保育園」は、住宅地の中に埋め込まれた、コートハウス風の保育園である。外部に対してある程度閉じなければならない施設だが、巧みな開口部の扱いとボリュームを分節する建築的工夫が閉鎖性を感じさせない。暖かみのある木質とセラミクスが質感のある白いジョリパットの壁面と美しい対比を見せ、保育園としての親しみやすさを生み出しているようだ。1、2階を連続させた芝の丘の園庭は子どもたちのさまざまなアクティビティを喚起するだろう。優秀賞、須部恭浩さんの「追手門学院大学中央棟」は、大学の研究室を集約した高層棟と伝統的な木造の茶室が隣接する。そのインタフェイスとして土壁風のスサワラ入りジョリパットが採用されたわけだが、アルミやガラスとの取り合わせがモダンな数寄屋デザインを感じさせるところが興味深い。優秀賞、都心部の17坪の敷地に建つ個人住宅である井川博英さんの「赤坂の家──都市の中の光」は、街並みの景観に寄与することが積極的に意識されている。トップライトの下の白いジョリパットで仕上げられた壁から片持ちで支持されたガラスの階段のディテールは、段板が宙に浮いたような不思議な表現だ。優秀賞、長尾壮一郎さんの「hair make Rush」は、琵琶湖に面した閑静な住宅地に建つヘアサロンということで、抑制のきいたデザインが意図されたようだ。職人の技が生きるジョリパット「水墨」の手の痕跡が利いている。入賞6点では、ジョリパットという仕上げ材を生かしたさまざまな表現が見られた。ディテールを消しモノの存在感を抑える黒いジョリパットが使われている専用住宅の「I邸」と、インテリアの「礼」。ツリーハウスの「ドングリHOUSE」は素人でもできる施工性。専用住宅の「Corner-less House」は平面から曲面にシームレスに回り込む壁面の可能性。「株式会社オハラ本社棟」はガラスドロップの埋め込み。集合住宅の「SKIPSSS」では、2層分の列柱のような表現があった。

 

審査委員 笈川 誠(月刊商店建築 編集長)

インテリアデザイナーや建築家にとってジョリパットという内外装材は、もはやスタンダード化している素材と言っても言い過ぎではないと思う。それを用いることを与条件としたコンペティションで評価を得るということは、ゆえに空間や建築にそれ相当の思考の深度や創造性が求められる。実際、応募作品には、ただ単にジョリパットが「使われている」だけでなく、建築のコンセプトがすでにこの素材を前提に組み上げられているような事例や、他の素材との洗練されたコンビネーションが空間や建築を高い次元に引き上げている事例など散見され、特に印象に残った。組み合わせる素材との相性の良し悪しはあると思うが、その可能性はまだまだ相当あるというもの改めての発見だった。それはたとえば、木や竹といったジョリパットと同じくくりとも言える和としての自然素材であり、対極はガルバリウム鋼板やガラス、アクリルといった対極の人工素材との組み合わせであろう。それらが、それぞれ緊張感と調和を保っているというのは、机上のロジックだけでは出せないエモーショナルな仕事の力量が見て取れる。またそれとは別の視点で、素材感を強調するための役割を担ったジョリパットの積極的使われ方と、空間の部位を意識させないために用いられた消極的使われ方という事例の対比も興味深かった。「吹き付け」ることを意識し、生かした和風仕上げのディスプレイなどもジョリパットの新しい使われ方を示唆しているように思う。いずれにしても内外装材、吹き付け材、左官材といった呼称や商品イメージに従順である必要はない。そこからすでに問いかけを行っていくことも、インテリアデザイナーや建築家の特権であり存在意義でもあろう。素材の開発者もおそらくそんな問いかけを待っているに違いない。何も新しい素材だけが新しい価値や意味を生むとは限らない、そんな当たり前のことを改めて再確認できたコンペであった。

 

審査委員 野田 近(アイカ工業株式会社 専務取締役)

今回は、昨年と比較して質の高い作品を多数ご応募いただきました。第1回のコンテストでは、住宅を対象としましたが、今回は全てのジョリパット採用物件を対象とした為、住宅をはじめ商業施設・学校・事務所など幅広く応募があり審査は難しかったです。
その中で最優秀賞に輝いた「岡本ハーベスト保育園」はその外壁や内壁に、ジョリパットが採用されています。内部と外部は、同じ色・パターンのジョリパットを使用していますが、外部はソリッドでフラットな質感に、内部は取り入れる光の陰影が美しい肌あいに、とそれぞれ異なる表情に仕上げています。光の当て方で様々な表情を作り出すジョリパットの特性をよく現した好例と言えるのではないでしょうか。また、周囲に廻らされた壁から、一見すると保育園に見えません。防犯上の観点からも、これからの保育施設が必要とする建築の姿が垣間見られたと思います。
また、優秀賞に選ばれた「追手門学院大学中央棟」は、ジョリパットの手のぬくもりが感じられる壁面と金属との対比が非常に面白く、「赤坂の家」は、ガラスを透過する光やLEDの光をジョリパットの壁面に反射させる手法が斬新でした。「hair make Rush」は、活性炭を混ぜ込んだ水墨仕上のジョリパットが自然な質感を生み出しており、それぞれ個性に溢れたものでした。
今後も、本コンテストを継続し建築に従事されている方の目標になるコンペとしていく予定です。

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