AICA 2015年施工例コンテスト AICA Project Reference Contest

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審査総評

審査委員長

古谷誠章(建築家 早稲田大学教授)

「斬新さと同時に、オーソドックスながらデザイン性の高いものに惹かれた」
 今日ではアイカ製品を使わずに建築を設計することは困難だ。年々新製品も開発され最新のプリントの技術やエンボス加工の技術、吹付やコテ塗りによるジョリパットのバリエーションも著しく多様化し、このコンテスト自体がそれらに出会う格好の場である。いずれも既にある種の質感がデザインの焦点になっていることが興味深い。製品の使い方の斬新なものには当然惹かれるが、同時にオーソドックスな使い方ながらデザインの質の高いものにも惹かれた。これも、製品の質感をいかに巧みに使いこなし、木や金属やコンクリートなどのソリッドな材料に対置されるものとするかという、真剣な取り組みがあったからこそだろう。

●富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー
木や土壁の古材に対し、新たに肉厚の黒皮鉄板の壁を挿入しており、ジョリパットの壁や天井にその両者の重量感を調停する働きを演じさせたところにデザイナーの力量を感じた。新しい要素にも鉄の重量感を与えたことで、新旧の要素を対峙させつつ、同時にそれらが渾然一体となって生み出す独特の空気が生み出されている。ジョリパットの白さがそのどちらにも対比的な要素となっていることが奏功した。

●TOKIN・TOKIN
変形交差点に対して貝殻の形のような、極めて特異な形の敷地に建つ。末広がりの最大斜辺に沿って車3台の駐車場を配し、主たる居住部分は2階に持ち上げている。1階部を水墨色、上階部分を白く仕上げたジョリパット壁は、オーソドックスながら、質感のある清々しいツートンカラーとなって、個性的なアイデンティティを生んでいる。

●広島八丁堀宮田ビル「マイライフ株式会社 オール薬局 八丁堀店」
いわばスケルトンに対してのインフィル工事である。機能上必要とされる薬のカウンターや、店内に目配りしつつ、患者のプライバシーにも配慮するため、半開放的な仕切りなどを巧みに計画し、しかもそれらのほとんどを家具的な軽快さで仕上げるデザイン手法は、秀逸である。

大西麻貴(建築家 一級建築士事務所大西麻貴+百田有希 / o+h)

「同じ素材でも、面積や場所、組み合わせでさまざまな“場所”が生まれる」
 審査はとても難しかったが、アイカ製品の魅力的な使い方もさることながら、多様な評価軸から最終的に受賞作を選ぶことができたのではないかと感じている。改めて空間のあたたかさや冷たさ、厳しさややさしさ、広がりや落ち着きといった、人々の居場所や建築の佇まいを特徴づける重要な事柄として、空間構成と素材との関係が切っても切り離せないものなのだということが感じられた。ジョリパットを始めとするアイカ製品に多様な表情や使われ方があることを実感するとともに、同じ素材であっても使用する面積や場所、他素材との組み合わせによってさまざまな“場所”が生まれるのだということを知ることができた。

●法連町の家
断面的にたいへん魅力的な計画になっていて、全体的にひとつながりの空間であるにもかかわらず、多様な環境や居場所を見つけられる家になっている。それらを特徴づける仕上げのひとつとして、ジョリパットアルファ(しっくい調)の壁が自然に使用されていることもよいと感じた。

●社会福祉法人 福島県福祉事業協会「あぶくま更生園」
風景や多様な屋外空間との関係、個室10室程度に対してコモンリビング、30室程度に対してパブリックリビングを持つなど、多様な暮らし方や集まり方、くつろぎ方を想像できる集落のようなプランニングが特徴的だ。土壁のような風合いの外壁と、開口部、金属屋根が組み合わさり、表情豊かな外観も魅力的である。

●folm arts
前面道路に対して、奥行きの深い家型の縁側空間をつくるというシンプルな改修によって、愛嬌のある佇まいと、まちの人々が立ち寄れる小さな居場所を生み出しているところが魅力的だった。ファサード全面からトンネル状につづく内部空間まで、空間を印象づける重要な要素としてジョリパットが使用されていることも評価された。

山倉礼士(『月刊 商店建築』編集長)

「「アイカ製品の使い方」「空間としての魅力」ふたつの視点から選考した」
 今回は歴史ある酒蔵の改修プロジェクト、オフィスのオリジナル家具と空間デザインの共鳴のアイデアまで、幅広く完成度の高い応募作があった。審査にはアイカ製品の使い方と、空間としての魅力というふたつの視点を行き来しながら、結果、アイカ素材を意匠のポイントに使用した事例と、平滑性や追従性など仕上げとしての性能から設計者に選ばれた事例が最終選考に残った。メラミン化粧板を建具などとして、インテリアの塗装仕上げとシームレスに用いて空間を構成したリノベ—ションプロジェクト「TOKYO RESIDENCE」と、木目のフィルム素材を天井面に用い、ナチュラルなしなやかさを空間に与えた「109シネマズ二子玉川」の計画などが印象に強く残った。

●109シネマズ二子玉川
“木漏れ日”をイメージしたロビーは、待つためのロビー機能だけでなく、大きな階段状の構成と素材使いにより、街への広がりを感じさせている。色の異なる木目のフィルム素材がランダムなリズム感を生み、堅苦しくない心地よさが演出されている。シアターへの高揚感を与えるトンネル状の通路など、利用者の心理に働きかけるデザインも印象深い。

●東北大学aimr磯部研究室
求められる機能を起点として、耐薬品性の化粧板をデスク天板の表面材に用い、実験器具などを収める収納棚も同じ素材で構築している。作業スペースの机には耐薬品性化粧板を使い、その天板上にケーブルでつながる機器を持ち上げた置き場を設けている。独自のアイデアと、室内の雑多なものごとを“整理”して見せる意匠性を高く評価した。

●湖畔の家
阿蘇の山々を窓外に望むという立地を最大限に活かした住居。その景色を取り込む大開口に注力した迫力ある構成が強く印象に残る。額縁となるフレームにはコンクリート打ち放しの無機質な仕上げと、黒一色の壁。壁内には収納スペースを設けているが、日常生活の中で全体の美しさを維持する配慮もなされている。

伊東善光(アイカ工業専務取締役 営業カンパニー長)

「よりニーズに応えうる製品開発とコミュニケーションを図る場として」
 今回も多数の応募をいただき、内容も住宅、店舗、医療、交通、教育施設といった分野の新築・リノベーションと多岐にわたり、慎重に審査を重ねた。マーケットの動向に沿った形で例年にも増してリフォーム・リノベーション作品が多く見られ、最優秀賞はコンテストで初のリフォーム・リノベーション作品が受賞した。また今回、新商品賞を新設したが、残念なことに該当作品がわずかとなってしまった。新商品の案内が満足でなかったことを痛感するとともに課題であると考える。今後も期待に応えうる製品開発を継続して行い、より一層みなさまとコミュニケーションを図るためにもコンテストを継続していきたい。

●TOKYO RESIDENCE
メラミン化粧板を壁面収納扉、パーティション扉、トイレ建具に使用したもので、メラミン化粧板の豊富な色柄・表面仕上げを活かし、壁面や天井の塗装と同じ色やテクスチャーにすることでシームレスな空間演出をしており、照明効果を考慮した空間の完成度として評価した。

●6Court-House
外壁にはジョリパットを使用し、ジョリパットの特長を活かしたシームレスな大面積で演出。内装材にも白のメラミン化粧板を使用した全体的に統一感のある空間表現である。外部は近隣からの視線をコントロールし、内部は開放的な空間を取り入れるといった空間構成の完成度として評価した。

●サキ西小岩
今までジョリパットは戸建て住宅で多数使用されてきたが、この作品は共同住宅の外壁に使用された。仕上げの異なるジョリパットを組合せた表現方法と、住宅着工数が減少するなか、高層建物へのジョリパットの展開として、期待感を込めて評価した。