AICA 2018年施工例コンテスト AICA Project Reference Contest

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審査総評

審査委員長

小坂 竜(建築家 乃村工藝社A.N.D. 統括エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)

何処にでも流通可能な素地をデザイナーがどう料理するかが審査のポイント

 今回のコンテストは応募総数491件、アイカ社内審査により抜粋され125作品(住宅41点、非住宅41点、リフォームリノベーション43点)について審査委員4人が事前インターネット審査を行い、各人約10~15作品選び、12月18日に一同に会し、審査会を行った。各審査委員から選ばれた43作品(住宅12点、非住宅16点、リノベーション15点)を全て4人の審査委員でレビューしながら選んだ理由を論議し合った。3票をネット審査で獲得した作品が4点、ディスカッションにより2票から3票へ格上げになった作品が1点、この5作品が大賞の候補となった。アイカの建材をそのまま使用する作品には票が集まらず、素材の可能性を追求した物、或いは一手間二手間手を入れた個性的な作品が残っていった。またどんなに素晴らしい空間であってもアイカ製品の使い方に工夫と個性がない物件は敢えて評価をしなかった。何処にでも流通可能な化粧板や吹き付け左官材、外装材という素地をデザイナーがどう料理するかが審査のポイントとなった。大賞、優秀賞は我々の審査基準をクリアした個性的な作品である。

●鮨まつやま
この作品は、路面に位置する2階建ての鮨屋さんのリノベーション物件。間口 が狭く縦に長いファサードを構え、その壁面にジョリパットを施している。その表情が、とても個性的かつ独創的、まるで左官職人の手作りの仕上がり感を醸し出している。凹凸感と混ぜる材料にも粗密と良い意味でのムラ感があり、それを強調する照明計画になっている。アイカ既成品番の吹付、及び左官材の枠を飛び越えた表現となっている事が高く評価できた。ジョリパットという材料の新しい使い方の提案となっている。

●かたつむりの家
家族が集まる天井が高く広いLDK空間に家のシンボルとなる「メガファニチャー」が鎮座している。そのダイナミックな形体と色調の存在感は圧倒的であり、そこに一家団欒の掘りごたつスペースや書棚、階段、収納、メゾネットのロフト空間と多くの機能が混在している。その大胆なフォルムを成立させ、機能上当然必要な耐久性や安全性、そして大胆な色や素材感が必要となる。従来、本物の素材を使用したいが、経済性や耐久性重視の為にメラミン化粧板を選択する使用例が多い中、家のシンボルをメラミン化粧板で創り切る大胆さとしっかりとした機能性が両立している点が、評価された。

●アップル保育園 野田
メラミン化粧板はその耐久性とテクスチャーのバリエーション、コスト面で多くの設計者が使用する最も流通している建材である。この物件では、化粧板の持つ特性にアイデアを加えて、この材にしかできない美しく、知的な使い方が高評価に繋がった。保育園という場に、耐久性の為にメラミン化粧板を用いただけではなく、メラミン化粧板の持つ豊富な色彩を棚の内側に施した。背板と側板の1面に同色のアクセントカラーを入れることで、陰影と反射光を巧みに用いてメラミン化粧板自体の単色に色のグラデーションを施す演出が美しい。また園児たちに色彩と大きさによる自己認知力を助長する効果を狙った点が秀でている。

家所 亮二(建築家 家所亮二建築設計事務所)

新たなインスピレーションにつながる可能性のある使い方があった

 私は自分の表現の中で重要な部分には、品番のあるものをそのまま使うことはしない。誰がどのように考えて作ったかという背景が見えないものでは、自分ならではの表現に届くとは思えないからだ。とは言え、コンテストの目的を履き違えぬよう、そして作品の完成度に惑わされぬよう、材料をどう昇華させているかという視点で審査に臨んだ。今回の審査会では想像を超えるようなアイデアを持つ作品は正直なかったが、材料のポテンシャルを超えた使い方をすることで、世界観を表現できている素晴らしい作品がいくつかあった。特に大賞の『鮨まつやま』のファサードは、材料と向き合った時間や手間が、その表情に力強さを宿らせたのだろう。まさに材料の力と言える、コンテストの目的に合致した理想的な使われ方だと感じた。新たなインスピレーションにつながる可能性のある使い方もいくつか見られ、次にどんな表現が出てくるのか楽しみになる有意義な審査会であった。

●裾野タナカ邸
そこにしかないシーンを作っている材料になっている、そんなポジティヴで豊かな使い方に好感。逆さ富士を映し出すだけでなく、生活の一部がコミュニティに滲み出るのにも一役買っている。地域に対する住宅の在り方や役割を想像しても、強いることのない、やらしすぎもしない心地良いシーンが見える住宅だと感じた。

●JOJOJOJO
隣地の家や擁壁を見ると新しくはない住宅地と想像する。その中で家のアイコンのような、そして以前からあるような、新しいのにエイジング感のある外壁による外観、この住宅は完成と同時にこの景色に溶け込んでいたのだろう。既製の素材を既製らしからぬテクスチャーに昇華させた好例。生活の匂いやシーンがコミュニティにポジティヴに出てこようとする、それを豊かさとして感じられるのもそこにフィットした佇まいがあればこそなのだと思う。

●大栄塗装工業株式会社 オフィス
初見ではカウンターだけでなく、壁までメラミン化粧板で仕上げたのかと勘違いしてしまった。実際は壁が鉄板で仕上げられているとのことで少し残念な気はしたが、これを見た側にさらなる可能性やインスピレーションを感じさせる表現になっているのではと、その点を評価した。

塩田 健一(『月刊 商店建築』 編集長)

対象製品が効果的に使用された応募作を見てみたい

 前年にも増して、更にレベルの高い応募作が集まったと感じた。私の審査視点は、「目的やコンセプトが、魅力的な空間へ変換されているか」「その変換過程の中で、該当製品(ジョリパット等)が効果的に使われているか」という点をメインとした。一方、ゲスト審査員のお二人の審査視点は、設計者らしく、「該当製品をそのまま使用するのではなく、使用方法を工夫し、唯一無二のオリジナル建材に近い表現ができているか」という一点に徹底しており、そのおかげで今年は審査結果が明快なものになったと感じている。強く印象に残ったのは、優秀賞を受賞した住宅「JOJOJOJO」。開放された玄関のすぐ奥に土間とキッチンがあり、土間まわりが多様な交流や活動の場になりそうだ。この建物はどんな活動も受け入れてくれそうな力強い蔵のようなイメージで、そこにジョリパットが効果的に使われている。今後はさらに、こうしたコミュニケーションのためのスペースといった社会性を持った空間の中で、対象製品が効果的に使用された応募作を見てみたいと期待している。

●福岡空港JAL国内線ラウンジ
空港内にあるJALのラウンジという性質上、日本的要素と現代性を融合し、特別感を生み出すことが求められたはず。その課題に応えるべく、レセプションカウンターの背面壁で、「ジョリパット」を使った立体左官壁と木格子壁を組み合わせ、複雑な奥行きと陰影を生み出している。その使用方法にオリジナリティーを感じた。また、日本的な雰囲気を生み出すために随所に木材を使いたいところだが、空港という場所柄、耐久性やメンテナンス性を考慮し、木目調「セラール」を用いている。これも適材適所の使用法と言える。 

●悦三郎
鮮魚と魚惣菜の店ということで、客に「この店は、上質な食材を繊細に扱っていそうだ」と直感的に感じさせる必要がある。そうしたイメージを、床の立ち上がりや天井の窪みなど、随所に施された繊細な設計と施工で表現している。店内で、中央の最も重要な位置に、メラミン化粧板を用いたショーケースが鎮座しており、こうした丁寧な手つきでデザインされた空間の中では、メラミン化粧板もまた上質な素材として見えてくる可能性があるのではないかと感じた。

●松尾学院 東進衛星予備校 阪急川西能勢口駅前校
予備校の受付カウンターというものは、全国どこでも均質化した予想通りの風景が展開されているが、ここでは予想外の大胆な造形で見る人に強い印象を与えている。三角形の造形に加え、2種類のポリ合板と照明の効果がエッジの効いた軽快でシャープな空間を生み出し、予備校に必要な知性的なイメージを実現できているように見える。天井高も面積も決して余裕があったわけではないだろうが、天井の鏡面仕上げがそれを効果的に克服している。

岩瀬 幸廣(アイカ工業株式会社 取締役 専務執行役員)

壁・床を中心とした製品開発を強化し、よりよいサービスを提供していく

 今回で7回目の開催となった施工例コンテストは、過去最高となる491作品の応募を頂いた。応募作品にはメラミン化粧板・ジョリパットをはじめ、新商品賞のアルディカ・クライマテリア、外装材のメース、海外からの応募もあり多岐にわたるもので、かつ力作揃いで大変苦労したが、素材を使用するだけでなく、いかにひと工夫されているかといった視点で慎重に審査させて頂いた。例年同様、住宅、非住宅、リノベーションというカテゴリーで応募、審査を行ったが、今年は最優秀賞にリノベーション作品が受賞したのをはじめ、受賞作品の約半数がリノベーションという今までにない結果となり、マーケット状況とマッチする結果となった。今後は、壁・床を中心とした製品開発強化、よりよいサービスを提供し皆様のお役に立ちつつ、作品の発表の場としてコンテストも継続していく予定である。

●そのき歯科クリニック
子供が嫌がる歯科クリニックにおいて、乳幼児や母親・他の患者さんにストレスを感じさせないよう一軒家にみえる個室の外壁をジョリパットの絶妙な色使いで見事に表現されていた。室内部の廊下はメラミン化粧板を上手く組み合わせ、庭のような表現を行い、庭から家に入る感覚を抱かせ楽しくなる医院づくりと素材の組み合わせを評価した。

●白鷗大学本キャンパス かもめ食堂
大学の食堂であるが、スポーツ振興に積極的な大学の特徴から“スポーツバー”をコンセプトに、テーブルをコートラインやボール、トラックのコースをオーダーメイド化粧板「グラフィカ」で表現し、ラウンドテーブルをつなげることでトラックができあがる空間は爽快そのものだった。学校の特徴をオーダーメイド化粧板で表現して頂いた点は、メーカー冥利に尽きる。

●いなみころ 三木別所店
市の所有する建物で全く新しいうどんを提供したいという思いを、日本伝統の木造軸組工法である在来工法を用いながらも、新しく映る木造建築が実現されていた。その中にジョリパットも上手く調和されており、素材を上手く使用しながら建物のアイデンティティを表現するといった点に共感が持てた。