第50回 現代建築セミナー

講師

ヴィニー・マース(MVRDV)

テーマ 「Universal Cities」
会場 2002年7月18日
(有楽町朝日ホール)

はじめに

今回、この講演でお招きいただき、日本にくることがやっとできたという感じです。私たち、あるいは世界の建築界はプラス面もマイナス面も含めて日本から多くの影響を受けているし、それがなければ実現しなかったプロジェクトも少なくない。目下、新潟県松代町のプロジェクトが進行中で、これからはますます日本が近くなることを期待しています。

MVRDVは1991年のスタートで10年が経ったが、私たちの作品にも皆様にお伝えする価値がようやく出てきたのではないかと自負しています。私たちの活動は、研究と設計の間の、また理論と現実の間のピンポンゲームのような特色を持っています。その辺を含めて話を進めたいと思います。

THE 3D CITYの検討

ベルラーヘ研究所で教えていた時期に取組んだ研究です。パリやロンドンなど既存の都市に「3D CITY」としての検討を加えるというものです。世界の有名な都市はどこもどんどん拡大し、拡散し、明確なコンテキストのないユニバーサルな街になっている。理論とコンテキストをどこでつなぐかを想定するために、各都市をいろいろ比較検討し、サバイバルのためにどんな対策を立てればいいかを考えます。まずは都市のキャパシティの分析です。建物を建てられる場所、建てないで保護区としておく場所、成長・消費・生産のために人間が利用する場所を算出し、それで十分かどうかを地球規模で考えます。そのために一体どれだけの土地が必要か、生態学的な考慮も加えます。場所によっては、例えばアメリカでは4.5ヘクタールですが、平均すると人間1人当たり2ヘクタールぐらいが必要です。人口を考えると究極的には地球からの脱出が必要になるかもしれないし、農作物を地球の外で生産しなければならないかもしれません。こういう夢を描くのも建築家の重要な役割です。

オランダの都市の再編 META CITY 1999

オフィスビルや住宅だけを考えていても問題の解決はできません。人口密度の高いオランダで、400キロ四方のなかに街を再編することを考えました。現在のオランダの土地区分を検討し、再編を考えます。例えば農村地帯を一度まとめてみるとどうなるか、さらにそれを組織的に編成し直してみると、畜産に合う土地、合わない土地、農業の適地・不適地等が明らかになります。それらを階層化させて積み上げていくという方法が出てきます。密度の高い街のなかで、いろいろな仮設を組み入れて考えを進めていきます。例えばすべての国民がベジタリアンになるとどうなるか、密度の解決だけで考えれば建物を更新して建てなくても解決できることもあるのです。ごみの問題もしかりです。建築家はつくることを仕事としていますが、世界中の建築家が手を結んで、都市空間を最大限に活用していけるように、いろいろな提案をしていく必要があります。

ハノーバー万博オランダ館での試み 2000

パビリオンは8つの庭がテーマで、庭そのものを積み上げることを提案、オランダそのものの特徴をそれぞれシンボルとして、さらに新しいプロセスのためのものとして展示しました。新しい生態系、新しい相乗効果等を期待し、自然を人為的に環境に取り込み、エネルギーや環境を新しいテクノロジーで新たな提携関係に誘導します。最下層部には水の循環のための装置、そこからさまざまな環境装置を創出し、光や風をどのように取り入れるか、防災対策はどうするか等をドイツ政府と折衝しつつ進めました。

ロッテルダムのダウンタウン改良 KMS 1998

3D Citiesの検討は一段落し、いま私たちは実際に都市にどのような働きかけが可能かを中心に、万博等で試みたことをさらに進めて、さまざまなフェーズで問題をとらえて具体的な検討を始めています。

ロッテルダムの計画は100×150mという小さな規模の密集市街地で、さらに密度を上げていくためにはどのような要素が考えられるか、15×30mとか10×20mの狭隘な敷地に超高層を建てると隣接建物同士が支え合わないと崩れ落ちます。空気的な広がりを経て第3の層を都市に重ね合わせ、新たな結びつき、共同・共有化、グループとしての個性等をつくりだすための、新しい都市のあり方を追求し、これまでになかった別なアクセスを考えてみました。

ウイーン中心部の計画 Donau City 2002

計画の一部を実際にウイーンで設計できることになりました。ウイーンはクラシックとモダニズムが共存する都市で、その中心に一部分ぽっかりと穴が開いたような地区があります。高層ビルが何本か建っていても、それぞれは入口はひとつでばらばらに上に上がっていくだけです。それぞれがネットワークされていません。プロジェクトの出発点はそうした穴を埋めることからスタートです。数本の違ったボリュームと高さをもつ約1万m2のビルを計画し、出入口を増やし、上部でもネットワーク化して回路でつなぐ、防災動線を共有する、といったことを建築家が理想的に描いてディベロッパーのできないことを推進します。ここには美術館などのコミュニティ施設も計画されて、ひとつの都市をつくります。

オランダの住宅地計画3題

アーキグラムもスーパースタジオも大好きですが、彼らの提案はなぜそこから1歩も進められないままで終わってしまったのでしょうか。柔軟性、3次元性、都市の喜びに気づきながら1970年代にはそれ以上は実現できなかったのです。私たちは21世紀の現在、近未来の環境を求めて3次元のなかで人類がどのように生残るべきか、建築家は真剣に大きな課題・矛盾に取組むべきでしょう。

アムステルダムの「100戸の高齢者住宅1995-1998」では建物そのものの高さを抑え、なおかつ広場の空間を創出するために、面積の足りない住戸を空中に突出させました。オランダも他国の例に漏れず高齢化社会を迎えており、高齢者のためのアムステルダム都心のアパート「3D HOUSES 1999」を計画しました。3本のアパートタワーで、それぞれが住戸面積と同じ規模の庭をもてるように考えました。オランダの地価は高く、庭を確保することは経済的に無理があり、地上の庭でなく庭をつくるタワーを建てます。美しいか否かより前に建築家として何ができるかが大事です。

もうひとつ、アムステルダムの埠頭に計画する集合住宅計画「Silodam 1995-2002」で、いかに周辺の眺望をじゃましないで建てられるかを考えました。ミニ近隣(Mini-Neighborhood)として8戸の住宅が回廊でつながり、2階建ての廊下やパティオつきの住戸を組み合わせて配置します。コストやさまざまな要素の分析からガウス曲線が出てきました。平面的にも断面的にもいろいろなルートやつながりがそれにしたがって出てきます。価格も異なれば、広さも明るさもそれぞれ違う住戸ができ、それらが積み重なっていき、共有施設や公共施設もできて街ができます。

MIX MAX 2000-2001

こうした3次元空間を市民によりよく理解してもらうにはどんな理論武装をしたらいいかをベルラーヘ研究所で考えました。それがMixed Cityです。街は一体どんなものをMixできるかを考えました。100万人収容できる街はどのようにつくれるか、どんな形態がいいか、どんなアイテムが必要か、いろいろ考えていくと次第に複雑になります。どれだけの水が必要かから始め、さまざまな計算をします。視覚的に訴えるものも必要です。100m立方のなかで、まずひとつの都市をイメージし、エレメントを入れ、定量化し、グループ化して方向性を探ります。産業と居住空間の融合、法律によるCo-habitation禁止との関係等、さまざまな検討を繰り返します。都市の融合の可能性を中心に探りました。

MANY FACTS Scapino Ballet 2001

100万人のフラットなエレメントの都市を20km四方で想定します。農業などを加えると100km四方の規模になります。そこに異なった機能に入れ込み、ひとつの立方体とし、プログラムを整理していくと2×2×2kmの単位として考えられます。必要な農業空間も養豚場もあります。ここで大事なのは光や風です。テラスを段々畑のようにつくります。この立方体にはたくさんの谷があります。居住空間、森林、エネルギー、工業、廃棄物、水の循環、レジャー、5km立方のなかに100万人の都市が生まれます。

高速道路を考え直す A20 CITY 1998-

実践に移すためにはアライアンス、同盟を結ぶことがいろいろな意味で重要になります。それはシンプルからコンプレックスまでさまざまです。高速道路周辺は活用が限られています。例えば公害等で高速道路沿いの地価は低いのが通常ですが、それが解決されて交通が完全にクリーンになるとどうなるか、高速道路の一部を都市のなかに吸収していくとどういう街があり得るか、時速120kmだけでなく30kmも存在し、近しさが重要な要素になります。つまりお互いの利害の交差点です。

アイントホーベンでの実験 FLIGHT FORUM 1998-2002

5年前のプロジェクトで1万戸のオフィス・工場・住宅の計画です。私たちは片側2車線、合計4車線の新しい高速道路を計画しました。敷地はわずか65ヘクタールですが、建築家として無機質な箱の連続でない道路を検討し、ゴムのような道路を提案しました。安全運転のためのスピード、交差点の仕掛け、どこにも現れる通行のじゃまになるインターチェンジのあり方を考え直し、信号もない状況が生み出せるかどうか、駐車場、荷物の積み下ろし場、アクセスをそれぞれゴム状の道路に塗り込みます。ファサードはありません。広告やネオンによって、新たな環境が生み出され、24時間さまざまなサインが機能を知らせてくれ、新しいメトロラインも引かれます。地元の建築家がこの道路をもとに隙間にさまざまな施設を計画して埋めていきます。

橋のコンペ PONTE PARODI 2000

実験的にインフラから改良していく領域に、さらに集約させて3次元を加えていくという計画にジェノヴァのポンテ・パローディのコンペがあります。海岸の土手沿いにスーパーストラーダ(高速道路)を通す計画のなかで、周辺の既存の街とショッピングモールを結び、一帯を交通の結節点とする計画です。そこで道路そのものを建物と考え、高速道路を持ち上げ5万m2のショッピングモールを取り込みます。その上を車が走り、駐車場につながり、ドライブインのショッピングスペースへと続きます。地表からうねりながら上がっているため、地表は解放され、人のためのピアッツァには車は入ってきません。

インフラをツールとして活用する

「4D DIJKHUIZEN 2000-2003」では、オランダ郊外のごく一般的な土地に計画する40戸の住宅開発です。既存の建物を活用したり、自然をそのまま拡大利用し、さらに水路や小さな道も含めて道路を活用する方法を探りました。そして最終的に40戸の住宅やさまざまな必要な機能をすべて道の下に計画したコンペ案です。しかし、オランダの別な建築家の案に負けました。

「SFR ZURICH 2002-」では、インフラをCo-habitationのツールとして利用する計画をやり、このコンペは私たちが勝ちました。インフラのこうした活用は歴史的な街では実現がなかなかむずかしいものです。チューリッヒでは1100台収容の駐車場やTV用放送施設が必要でした。スイスは山の多い土地ですから、起伏を生かし、各施設へのアクセスランプをデザインの大きな要素として計画しました。さらに出会いの場、スイスというイメージの3次元的解釈を大切に考えました。

ピノー美術館コンペ Douze Terres 2001

安藤忠雄案に負けてしまったセーヌ河に浮かぶセガン島の現代美術館のコンペ案ですが、島全体の再開発計画も視点に入れて、やはりここでもインフラを表現に使おうと考えました。フランス初のプライベートコレクションのためのミュージアムで、フランスならではの特殊性も考慮に入れました。島にあるため、芸術の刑務所にすることも可能だし、アートの解放の場とすることも可能です。ポンピドーセンターに匹敵する大きな施設であるため、プログラムを各ピース毎に分け、それらをいかにつなげていくかをテーマとしました。また人が来やすい環境づくり、水との共存、地下鉄等の公共輸送機関との関係から、新しいバッテリースペースが必要と考えました。駐車場、ギャラリー、新しい鉄道、ウォーターブリッジ、巨大なプラットフォームの5つのエレメントを配合し、全体では12のエレメントとします。空間と空間、人と出会いのスペース、アートと人の関係のスペースの利用の方法としてin-between spaceをからめていくという考え方です。

新潟県松代町の文化センター 2001-2003

越後妻有6市町村が国内外のアーティストを呼んで大地の芸術祭アートトリエンナーレを2000年に開催しましたが、松代町はそのひとつで、そこから依頼の文化施設です。パリのコンペは負けましたが、その考え方を小型化したものを実際に建設中です。夏は米作、冬は3mの積雪に埋もれる町の村民と現代芸術を結びつける場として計画しました。天候の変化に耐えながら象徴的に存在するように、建物は地面から浮き上がり、屋上は周辺の自然と一体化しますが、高齢者も身障者も入りやすいよう工夫しています。

図書館と蔵書の再配分 INFO CITY 2001-

インフラを3次元に導くことの例を挙げましたが、情報も含めてプロジェクトを垂直型の都市に導くことを考えています。公立図書館が各都市に建設されてきましたが、どんな図書館にも、例えばある1人の作家の全作品が収蔵されているということはなく、情報としては不完全な施設ばかりです。インターネットやeコマースの普及で小さな図書館でもあらゆる書物がすばやく入手できなければ意味がなくなっています。本は長期の保存に耐えるものです。それだけにだれでもがアクセスできる施設として図書館は存在しなければなりません。100km×40kmぐらいのある州における図書館の分布から、すべての既存の図書館を売却してしまい、経済的に統合させ、例えばガソリンスタンドの脇とか、スーパーのレジの脇とか、アクセスしやすい場所に500のミニ図書館をつくります。次に巨大な中央図書館とミニ図書館をつなげるシステムを構築します。ミニ図書館の蔵書を一度すべて中央図書館に集め、分類し、不足分を新たに収蔵し、ある秩序をつくりだします。すべての書物を分類整理すると総延長17kmの本棚になります。その17kmの蔵書棚を含めて、どんな建物として考えていけばいいのか、それをいろいろイメージしました。垂直水平に動くコンピューター内臓のエレベーターを設置して、閲覧者が自由に書棚の間を遊泳します。この先10年ぐらいでこれを成し遂げます。

アイントホーベンでの実験 FLIGHT FORUM 1998-2002

5年前のプロジェクトで1万戸のオフィス・工場・住宅の計画です。私たちは片側2車線、合計4車線の新しい高速道路を計画しました。敷地はわずか65ヘクタールですが、建築家として無機質な箱の連続でない道路を検討し、ゴムのような道路を提案しました。安全運転のためのスピード、交差点の仕掛け、どこにも現れる通行のじゃまになるインターチェンジのあり方を考え直し、信号もない状況が生み出せるかどうか、駐車場、荷物の積み下ろし場、アクセスをそれぞれゴム状の道路に塗り込みます。ファサードはありません。広告やネオンによって、新たな環境が生み出され、24時間さまざまなサインが機能を知らせてくれ、新しいメトロラインも引かれます。地元の建築家がこの道路をもとに隙間にさまざまな施設を計画して埋めていきます。

橋のコンペ PONTE PARODI 2000

最後のプロジェクトです。ヨーロッパにおける農業や畜産業は狂牛病などの蔓延で末期的症状を呈しています。その再編計画です。オランダでは農業省の廃止論まで出ています。新たな融合や共存の可能性が考えられなければなりません。ヨーロッパにおける農業の変化や政治的背景の劇的な変化をふまえてピッグシティの提案を行いました。オランダの養豚産業におけるあり方について言及しています。ここでも建築は操作をするためのツール、社会変革の道具としてとらえています。

オランダの養豚の盛んな一地方を取り上げました。オランダには1500万人の人間と1500万頭の豚が住んでいます。国土の1/3の土地が豚に占拠されており、もっと豚にやさしい環境を考えると実際は国土の80%が豚に取られることになります。そこで養豚産業をできるだけコンパクトにするための方策を考えました。豚の病の原因の最大のものは移動中のストレスといわれます。したがって、飼育と食肉処理を同じ地域でできるように考えました。ここでも垂直方向に積み重ねました。豚アパートのまわりに3000戸の人間の住まいがあり、豚の排泄物から発生させたガスをエネルギー源として使います。餌として必要な麦やトウモロコシなどもここで栽培します。約20%必要な蛋白質源として水やアンモニアの循環系との組み合わせでサケなどを放流します。1日2時間半ぐらいの日照も確保します。豚が自由に動き回れるバルコニーもあります。人間の病院も豚の病院もあります。新しいエコロジー、環境にやさしい農業のあり方を提言するものです。ピッグタワーはどこにでも建てられます。嬉しいことに規模は小さいけれど2~3ヵ所で実際にモデル農場がつくられることになりました。まず8階建ての養豚工場がつくられます。
建築家としてはちょっといき過ぎかもしれませんが、次世代の子どもたちに少しでも分かってもらうことは必要なことだと思い、このプロジェクトをセサミストリートのような映像にまとめてみました。

これらのプロジェクトはある意味では20~30年前に日本で熱心に取組んでいたことの発展形であるといえます。ということで、これらのプロジェクトを日本の建築家のみなさまにささげたいと思います。長時間のご清聴ありがとうございました。(拍手)

質疑応答

Q
質問1:建築を数値化することは、建築をとりまく状況を漂白してしまうことにならないか。さらに風景を抽象化されたままにしないで、いかに建築のスタイルに取り組みかについてお聞きしたい。
A

マース:データは現状を説明するためであると同時に仮説を語るためのものです。データや数値を使って仮説で新しい建築やアーバニズムを説明します。新鮮さはいろいろな情報のなかにあります。建築家はそこに強く吸い込まれるが、そこから模倣でなく新しいものを発見することは建築家側のチャレンジです。それは個人と集合の融合でもあります。

Q
質問2:MVRDVの作品は空間操作がうまいと思いますが、何々らしさが感じられない。プログラムそれぞれの「それらしさ」については、どのように意識されていますか。
A

マース:私たちはドイツのある墓地のコンペに、従来の墓地とは異なる提案をして入賞しました。モダニティとは与えられた「それは何か」を処理するのでなく、そのもの自体を考え直すことではないでしょうか。ご質問は「建物のたたずまいはいかにあるべきか」でしょうが、私は意識的にそれらしくないことを願います。高齢者住宅などでは特にそうです。アムステルダムでは飾り窓地区のなかに幼稚園もあります。新しい融合のあり方を建築家は見出すべきではないでしょうか。