AICA 2019年施工例コンテスト AICA Project Reference Contest

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審査総評

審査委員長

橋本 夕紀夫(橋本夕紀夫デザインスタジオ)

外部と内部が有機的につながったジョリパットの使われ方が印象的

 入賞作品を改めて見回してみると、それぞれが個性的でデザインや仕上がりの完成度が高いものが多かった。特に最優秀賞に輝いた四畳半キューブの家は、まるで四畳半の戸建てのような部屋をいくつか配置して、そこにできた隙間を路地や坪庭のように見立てた物であった。それぞれのキューブの壁面の仕上げ材としてジョリパットが使われているので、内部空間にありながらも外部空間にあるような景色をつくりだしていた。その他の入賞作品もジョリパットを個性的に使っているものが多く、特に建築作品においては外部の仕上げと内部の仕上げ共にジョリパットを使い、空間の連続性を意識してつくられているものがいくつか見られた。
 このように外部と内部が有機的につながった空間を表現するにあたって、ジョリパットという素材は非常に有効である。その他、インテリアでメラミン化粧板を巧みに使い非常に精度の高い空間を作り上げているものも多かった。特に、NSK MUSEUMは、メラミン化粧板を使った什器の仕上がりの精度が非常に高く、美しく緊張感のある空間を作り上げることに成功していた。

●四畳半キューブの家
四畳半というサイズは極めて独特で、それが置かれている状況によって表情が変わってくる。例えば、茶室における四畳半は高級感があり品位の高いものである。ところが一般住宅になると、どちらかというとマイナーで隅にひっそりと設らえられているようなイメージがある。この違いを自分なりに分析をしてみると、茶室は戸建てのケースが多く、かたや住宅の四畳半は住宅に取り込まれているケースが多い。そして茶室は廻りの庭やそこに至るまでのアプローチとの関係の中で形づくられている。したがって四畳半そのものだけでは存在していない。
この四畳半キューブの家はまさにそのような四畳半と外部との関係の中で作られている。このような考え方の住戸が現れたことによって、住宅における四畳半の概念が少しずつ変わっていくのではないだろうか。

永山 祐子(永山祐子建築設計)

内外シームレスに施工できて風合いも多様ジョリパットの魅力を活かした作品に注目

 魅力的な作品が多く、予備審査の票は割れ、賞の決定は容易ではなかった。決め手は通常の作品賞とは違いアイカ商品の特徴を活かし、作品の魅力を生み出しているという点である。最も多い施工事例としてはジョリパットであった。内外に使うことができ、シームレスに施工が可能、風合いも多様。これほどの優秀な材料はなかなかない。私も様々な場所で使わせていただいている。最優秀賞の「四畳半キューブの家」では内外のつながりをジョリパットという素材を内外統一することで表現していた。また、「Moon Phases」ではシームレスな壁面を、「TUNE」ではジョリパットのワイルド表情を活かして洞窟のような雰囲気を作り出していた。私自身、新しい素材の発見に繋がった作品としては「嘉島町北甘木のみんなの家」の湿気の吸収、消臭、抗菌の特徴を持つモイス。集会場のような場所にとても有効な素材だと思った。作品の清々しい雰囲気と相まって、その場所の清々しい空気をも作り出している。それぞれの作品の魅力の裏にこのような素材の存在があることを改めて感じる審査となった。

●長谷の客間、隣の住まい
由比ヶ浜沿いの家。敷地に建つ2軒のうち海側の一軒、そして母屋の一階を旅館用の客間として、家のほとんどを人を招くための場所としている。その為、日常の中に非日常のハレのシーンが所々に挿入されている。例えば母屋側から見る離れの奥の大きな窓の向こうの海の風景など。その日常と非日常のレイヤーがこの家の物理的な奥行きを、精神的な奥行きとして増幅させている。切り取った窓はフレームレスで壁に開いた穴として表現されている。ジョリパットの特徴が活かされている。

●EMERALDAS(客室)
隅田川を運行する漫画家松本零士氏のシリーズ3隻目の船の内装である。実は2隻目のHOTALUNAのデザインを担当したので姉妹のような船に親しみを感じる。船の内装に求められるのは耐久性と全ての家具を固定化しなくてはいけないという条件である。固定家具の条件を逆手にとり、ある場所は内向きのベンチに、ある場所では外に向かって座るテーブルに変化する入江のような未来的で魅力的な客席スペースを作り出している。有機的な形状をシームレスに作り出しているコーリアン®のカウンター天板も全体の雰囲気に合っている。

塩田 健一(『月刊 商店建築』 編集長)

屋外空間の魅力をインテリアに採り入れる設計手法は時代の潮流のひとつに

 回を重ねるごとに、応募作のレベルが上っているように感じる。
 屋外空間が持つ気持ち良さ、自由さ、包容力をインテリアに採り入れるという設計手法は、時代の潮流の一つだと感じる。その意味で、「四畳半キューブの家」「Moon Phases」「TUNE」などは、ジョリパットの塗り方で、室内に屋外環境のような表情を持たせており、強く印象に残った。
 また、「京町家旅館 すみ蛍」「長谷の客間、隣の住まい」は、日本的な美しいシーンが、見る者をハッとさせる。そうした空間の中で、柔らかい光が開口部から室内に滲むように差し込み、その光がジョリパットを美しく見せており、印象的だった。
 更に次回以降、アイカ工業の該当製品に、オリジナルの加工を施した応募作ももっと見ていたいと感じた。そして、今、「コミュニケーション空間」「居場所」「ワークプレイス」などが空間デザインのホットな領域と言えるので、それらに関する応募作がもっと集まることを期待している。

●HOTEL THE SCREEN 「MOON PHASES」
このプロジェクトでは、使用する色彩や素材の種類をできる限り縮減することにより、特別感を生み出している。しかしそのミニマルさは、単調さや冷たさに行かず、むしろ自然環境に似た複雑で温かい表情を獲得しているように見える。こうしたデザインを技術的に可能にした要因の一つが、ジョリパットをうまく使って、直線の少ないシームレスな造形とザラつきのある肌理を実現したデザイン戦略にあると言える。

●NSK MUSEUM
医療機器メーカーが、その製品や技術を顧客向けに展示するミュージアムである。展示品は緻密で繊細な機器であるため、鑑賞者は、目の解像度が上がった状態でこの空間を見る。だから、展示什器の納まりも非常に繊細さを求められる。できることならアルミ削り出しの什器などをつくりたいところだろうが、それでは施工性、メンテナンス性、コストなどの要件を満たさない。そこで、メタル化粧板とメラミン化粧板を活かし、展示品に相応しいシャープさを実現している。ディテールの設計能力にも感嘆した。

岩瀬 幸廣(アイカ工業株式会社 取締役 専務執行役員)

新しい素材をもっと使ってもらえるようタイムリーな情報発信の強化をしていきたい

 今回で8回目の開催となった施工例コンテストですが、当社の主力であるメラミン化粧板・ジョリパットを中心に、新商品賞のメラミンタイル・クライマテリア、外装材メース、海外案件など今回も多岐にわたり246作品の応募を頂き素材の使い方、空間とのマッチング、空間構成といった視点で審査させて頂きました。
 ただ、残念なことに新しい床材として床市場に新規参入したメラミンタイルやアイカとして初めて取り扱いを始めたセラミックタイルのラミナムといった新商品賞の応募は数点に留まり、当社からの告知不足を痛感しております。
 今後は、壁・床を中心にさらなる製品開発を強化すると同時に、皆様にタイムリーに案内できる様に情報発信も強化していきます。

●SAKURA PASSAGE FUNERAL HALL
建物を桜並木通りの並木に見立てた構成にジョリパットを上手く組み合わせて、建物全体を引き立たせる素材使いが非常によかった。室内の柱、方杖、梁を連続させパサージュのような風景を生んだ全体構成を考慮しつつ、光の取り入れる構成もよくできており、建物全体のストーリー性も評価させて頂きました。

●iino naho 千駄ヶ谷店
ファサード部の巨岩から切り出した一枚板のような表現に目地なしで自然な質感のストンアートを使用することで空間のベースを形成し、空間全体のイメージにマッチしていました。楕円弧を上限反転させたアーチ壁もよく考えられており、空間構成を評価させて頂き新商品賞に選定させて頂きました。