AICA 2016年施工例コンテスト AICA Project Reference Contest

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審査総評

審査委員長

橋本夕紀夫(建築家・橋本夕紀夫デザインスタジオ1962年生まれ。東京工芸大学教授、愛知県立芸術大学非常勤講師。)

「個性を際立たせる仕上げ材の可能性と素晴らしさ、影響力を改めて感じた」
 今回の審査を通して改めて感じたことは、仕上げ材の持つ影響力についてである。特に建築作品の場合は、骨格を決めて採光の状態や設備環境を整えれば、一つの空間が形成されるが、仕上げによって全くその様相を変えてしまう。至極当然の話であるが、逆説的な例を挙げよう。ある著名な建築家が設計をした建物であるが、当初はブティックとして建てられたものである。端正なコンクリート打ち放しの表情は凛とした雰囲気を醸し出していた。ところがある時そこが信用金庫に代わってしまった。もちろん建築の骨格はそのままだが、今迄になかった仕上げの要素が加えられたことによって、全く精彩を欠いた建築に変わってしまったのである。仕上げによってその価値観も変貌してしまったのである。それ位に仕上げ材が空間に及ぼす影響が強いということである。
今回このコンテストに応募された作品群は、仕上げに対して真っ向から立ち向かったものが数多くあり、様々な可能性を示してくれた。最近は品質の高い仕上げ材の製品が多数存在しているので、それをそのまま使うのもいいが、それらを少しアレンジしたり、他要素と組み合わせることによって、より個性を際立たせることができる、そんな仕上げ材の可能性と素晴らしさをたくさんの作品が語ってくれた。

●中道のある家
一つの敷地内に「中道」と名付けられた路地を作り、そこにいくつかのタイプの違う家並みがある作品である。このようなコンセプトによる建築は前例がないわけではないが、ここで特筆すべきは、それぞれの家が、日本の住宅街によく見られるような多種多様で、言い方を変えると雑多な家並みを意図的にデザインに組み込んでいるところにある。結果的に仕上げ材もジョリパットや木質系の材料、タイルなどのいろいろな表情を持つものが混在している。この作品を見ていると、今までただ雑多にしか感じなかった日本の街並みもなんだか愛おしく思えてくる。

●336 ébisu
48㎡でしかも区画が超変形の非常に難易度の高い物件を卓越したレイアウトでまとめている。このような狭小空間であるにもかかわらず、窓面と反対側の壁面に沿ってアーチを設けて、ニッチ状の客席をつくっているところが面白いし、かえって空間に広がりを与えている。アーチの仕上げをモノトーンのジョリパット仕上げに統一しているため、自然光や人工光の微妙な光の変化を楽しめる空間になっている。

●フクラシア浜松町予約センター
うなぎの寝床のような区画内に長方形の長いデスクが3台配置されただけの非常にシンプルなワークスペースであるが、天板に施されたグラフィックによって、豊かであると同時にリラックスのできる空間づくりに成功している。様々な色彩がにじみながら、それぞれの場作りをしているのも興味深い。

山倉礼士(東京生まれ。「月刊 商店建築」編集長(※ 2017/2/20退職))

「例年に比べ、幅広い建材の活用事例が多かったことが印象に残っている」
 一次審査を通過した応募作には、内外装の仕上げ材に加え、ボードやシート材、更には塗り床材や外装コンクリートパネルなど、例年に比べ幅広い建材の活用事例が多くあったことが印象に残っている。私個人としては、予算の多寡に関わらず、景色との距離感やエリア特性への配慮といった全体の構成と、理想のインテリアを実現する手段として建材の機能を活かし切ったものや質感へのこだわりといった細部への配慮の双方を見てデザインを評価することを心掛けた。審査員間で「このジャンルではこの作品が秀でている」「図面を見るとこちらの提案が新鮮」などと活発なやりとりがあった審査を振り返ると、最優秀、優秀賞は、来店者に対して一歩踏み込んだ空間的な提案があるもの、住宅ではデザインによる回答、住み手に対する独自のアイデアや思いやりが垣間見えるものだったと感じる。また、リノベーション事例の質の高さには、現代の空間デザインの潮流を強く感じた。

●Soup Stock Tokyo中目黒店
テラゾーやナグリ仕上げの材など古くからあるマテリアルと、「モイス」といった機能建材を組み合わせ、この店舗のために描かれたオリジナルタイルを含め、全体をスープ店という業態にフィットするように構築したデザインを高く評価したい。また、店内中央のカウンターの配置により、座る席によってまったく印象の変わる上質かつユニークな店舗となっている。高架下という与条件が、豊かな“楽しさ”に変換されていることに現地で気づいたことも追記しておきたい。

●月栖の家
庭との関係性に配慮した応募作が多数あった中で、この事例が特に印象深いのは、円形の植栽スペースを中心にしたレイアウトと、その高さ関係により魅力を創出したリビングルームの計画だった。純白の外壁とトーンを抑えた内部のコントラストがそのプランを更に強調しているように感じる。全体のボリュームを分散させた配置の中での自然光の取り込み方や、前面道路からの見え方にも細やかな配慮を感じる。

●陰翳の家
マンションリノベーションという限られた条件内で、柱や梁を丁寧に処理することで、光や影という根源的な現象に気づかせてくれる上質な事例。厚みとシームレスな一体感を与えるジョリパットの使い方を高く評価したい。壁と天井の処理だけでなく、上部だけを開放した間仕切りや人工光の回し方まで、徹底した配慮のもとに設計されているように感じる。飾り棚、障子窓、フロアの貼り方まで設計者の目が行き届いていることで実現された“豊かさ”がある。

谷尻 誠(1974年広島生まれ。2000年建築設計事務所 Suppose design office 設立。)

「全体的に完成度の高い作品が多く見応えのある審査会であった」
審査においてなにを評価するべきなのかを悩む程、完成度の高い作品が多く、見応えのある審査会であった。私は常々、材料の選定を行う上で、カタログに掲載されていないものを使いたいと考えている。それはカタログにある材料は、どこかで誰かがデザインしたモノを、どこかで誰かが同様に使っているからだ。新しいものをつくりたい思いが背景にあるので、そんなことをいつも考えている。とはいえ、全ての材料を自分たちでつくる訳にもいかないので、もちろんカタログに頼ることになる。だとしても、その材料の使い方、他の材料との組み合わせ方、なにか出来ることがあるのではないかと最後まであがき続ける。
上記の様な視点で、作品を拝見させて頂いたのだけれども、完成度は高かったが、新しい使い方を示唆する作品は少なかったように思う。審査をするということは、どこかで裏切られたいという気持ちがあるのかもしれない。そんな事を思いながら、新たな作品への出会いを期待している。

●Slide House
景色に対し多層レイヤーを持たせた計画は、内部からの風景の体験を多様なものにしている様子がうかがわれる。多様であることを助長するようにマテリアルは絞りこまれ、風景と空間が顕在化することに材料が機能しているともいえるだろう。

●名古屋のコートハウス
通り庭のような、道が場所になっているかのように動きのある住空間は、そこに懐かしさと新しさが同居しており、非常に好感を持つことができた。内外の関係においては室内が縁側のように庭との親和性を持ち、素材が懐かしさをより助長し、快適性と先進性を感じさせる魅力的な提案であった。

●みなとみらい学園 横浜歯科医療専門学校
パネルの割り付けを考えることで、建物がひとつの模様となっている。各階を規定するように水平線が描かれがちな建築において、その境界線をあいまいにすることで、建築が少し柔らかい存在になっているように感じる事ができた。非常に繊細な計画に真摯に向き合い、かつ新しさとして表現されている点が、評価の対象となった。

岩瀬幸廣(アイカ工業株式会社常務取締役 建装・建材カンパニー長)

「今後も革新的な製品開発を行いながら、コミュニケーションの場としての継続を目指す」
アイカ施工例コンテストと名称を変え今回で5回目の開催となったが、主力商品のメラミン化粧板・ジョリパットをはじめ、340作品もの応募を頂いた。作品内容も住宅・非住宅、新築・リノベーションとあらゆる分野から頂き、どれも力作揃いで審査も大変苦労した。
今回はアイカテック建材㈱の外壁材メースなど新しい商材も応募の対象としたことで、従来にはなかった建築物の応募を頂くことができた。また、住宅着工戸数が減少傾向の中でも、アイカ商品を上手く取り入れた多数の住宅作品の応募を頂いたり、またマーケット動向に沿うかたちでリフォーム・リノベーション作品の応募も年々増加傾向となっている。
昨年に続き新商品賞を設定したが、該当なしが殆どでアイカからの新商品の案内がまだまだ不足していると感じている。
今後も皆様のお役に立てる様な革新的な製品開発を行い、コンテストについても皆様とのコミュニケーションの場として継続をしていきたい。

●NTT西日本 研修センタ 本館
建物のシンボルとして外壁にはメースを使用し、コンセプトの1つであるセンシティビティを刺激する真の環境建築の創出を上手く表現できていた。植栽枡部には建物に自然となじむカタチでジョリパットアルファを使用し、デザインと素材の調和がよいものだった。

●マックスパート 八重洲オフィス
地下オフィスの為、窓がないことをいかに感じさせないかということがよく考えられており、さらに各エリアにカラーを取り入れ造作家具にメラミン化粧板を使用し、床のカーペットとカラーを統一させることでひとつのオフィスの中にも個別スペースを生み出すインテリアとしての空間構成を評価した。

●いとう日和
素材としては木や人造石、土壁、レンガ、モルタル、天井材に調湿効果のあるモイスと色々なものを使用していますが、個々の素材が主張しすぎない工夫が施されており、お店で取り扱われるオーガニックな食品と息のあったインテリアデザインと空間構成を評価した。