AICA 2016年施工例コンテスト AICA Project Reference Contest

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審査総評

審査委員長

飯島 直樹(建築家 有限会社 飯島直樹デザイン室)

「仕上げ材=微細な表層現象。作品それぞれの背景に「気配」を感じた」
 多量の応募作のすべてというわけではないが、住宅部門や非住宅部門のジャンルを問わず、ある共通の感覚があるように思えた。それは多義的な意味での「気配」がデザインの背景にあるということである。例えば最優秀作の「ドーマー窓の家」は凛とした白い軒空間をもつ。軒下が街並みと共有する場を作り、単体の建物に融合する気配が生じる。優秀賞作の「大空と大地のなーさりぃ」は外壁のセメント成形板メースの裏側をわざわざ使っており、工業製品の隠れた物質感によって素材が醸し出す気配を呼び戻そうとしているかのようだ。同じく優秀賞の「株式会社ラックJSOC」は湾曲したガラススクリーンとホワイトアウトしたシート素材の表層感がレイヤーすることによって、サイバーセキュリティ業務の無菌室的な気配を生み出している。これらの様々な「気配」にとって、仕上げ材=微細な表層現象の果たす役割はすこぶる大きい。今後デジタル技術による高解像度の仕上げ材開発が、そうしたあたらしい空間現象を生成することを期待したい。

●ドーマー窓の家
街並みの風景はかつては暗黙のルールらしきものがあったはずである。昔の日本のそれは街並みに沿った屋根面であり、揃った軒先の並びの風景が街と建物とを共有資産化させた。そうした失われた美しさを、この住宅は奮起し作り出す。素木の方丈に支えられた屋根とフラットなジョリパットアルファの白い外壁が凛とした風情を道筋に生む。ドーマー窓がダイナミックな気配喚起装置として、これもまた街に貢献している。気持ちの良い住宅だ。

●HE10
西に遠望する海、北側の桜の群生、立地のそうした眺望条件をチューンナップするシアトリカルな装置のような住宅である。玄関ホールは桜のためのシアター、2階のLDKは海に開かれるシアターとして解像度が上げられる。斑の入ったメラミン化粧板で構成されたキッチンすらもシアトリカルな演出装置としてデザインされる。エンターテイメント性の強い、「快」のための空間演出を評価したい。

●グレイス プレミアム
艶黒とクロームの組み合わせはベンツのフロントマスクなどのように「ラグジュアリー」のアイコンだが、それがなんとキャンピングカーに出現する。1BOX車の内部改装によるもので、キャビネットに光沢のある曲面の黒メラミンとクロームのモールがアイコニックに施される。艶黒メラミンの「水を得た魚」振りがなんとも好ましい。

鈴野 浩一(建築家 株式会社 トラフ建築設計事務所)

「素材ありきで考えられたデザインが多く、強く印象に残った」
 素材選びはどうしても設計のプロセスのなか、後半に回りがちになるため、自分自身もなるべく計画の初期段階から考えていくように意識している。まだどんな空間にしたら良いか決まっていなくても、普段から集めている気になる素材を手でいろいろ触りながら考えていくことでアイデアを膨らませていく。料理人がマーケットに行って、新鮮な素材を手に取りながら何をつくるか考えるようなイメージをもったら楽しい。今回の審査をしていても、その素材ありきで考えていると思えるものが強く印象に残った。

●大空と大地のなーさりぃ 下井草駅前園
素材サンプルを手に取って見る時、ついついヒックリ返して裏を見てしまう。そして裏の方が魅力的だと思ってしまうことが度々ある。この作品ではセメント板の裏面を表に使って、ムラのある味わい深い、自然素材のような魅力的な表情を生み出している。

●上池台の住宅 いけのうえのスタンド
後から増築したかのように見える小屋が最初からきちんと計画されているところが面白い。街に対しての仕掛けがいくつもあり気軽に立ち寄りたくなる空間をもった魅力的な住宅となっている。

●天井高3メートルのリノベーション
天井高を活かした大きな曲面で壁から天井までつなげた箇所がいくつかあり、ゆるやかな陰影が空間に奥行きを与えている。床と家具が濃い色の木で統一それていて明るいグレーの壁、天井とのコントラストがあり、落ち着きのある空間になっている。

塩田 健一(『月刊 商店建築』 編集長)

「コンセプト・意匠性・施工精度においてクオリティーが高かった」
 二次審査に残ったプロジェクトの多くは、コンセプト・意匠性・施工精度といった点でクオリティーが高く、選考しながら充実感を覚えた。特に、時代の雰囲気に沿ったプロジェクトは印象に残った。街との接点となる交流スペースを持った「ドーマー窓の家」「上池台の住宅」「Ono-Sake Warehouse」など、社会性を感じるプロジェクトがその例と言える。では何を基準に選考したか。私としては、「空間全体のコンセプトに合致するように(アイカ工業の)建材が使用されているか」「使用部位が、ある程度の面積や物量に達しているか」「使用建材の長所を生かしているか」を大まかな基準とした。雑誌編集的な視点から欲を言えば、次回以降は今回の応募作で多く見られた白系のジョリパットだけでなく、他の色の秀逸な使用例やメラミン化粧板のような”フェイク”素材を、フェイクならではの特性を引き出して使用した、ポジティブで意外な使用例の2点にも期待したい。

●株式会社ラック JSOC リニューアル
サイバーセキュリティーの監視センターというこの空間の機能を考えると、クリアでクリーン、そして知的で未来的な空間イメージが求められたはずである。そうした空間イメージを、有機的な流線型の造作やプランニングに加えて、そこに白いオルティノやメラミン化粧板をシームレスに貼ることによって具現化している。こうしたデザインでは、竣工後に汚れずに使用してもらえるかが気になるが、これらを採用することでメンテナンス性にも配慮している。 

●まんなか
中央に設けた吹き抜け空間に自然光が降り注いでいる。その空間は、土間と木製の床で構成され、まるで中庭のようだ。室内と屋外の「良いとこ取り」をしたような、気持ち良さそうな住空間である。その吹き抜けを取り囲むように、水平面を木目、垂直面を白色とし、明快でダイナミックな空間構成としている。こうした明快なデザインでは、いかに単調にならないよう一工夫を入れるかが重要だが、その課題をジョリパット(水墨)で仕上げたアクセントウォールによってうまく解決している。

●Ono-Sake Warehouse
この建物は三つのボリュームを並べて、それらを少しずらしたような構成となっている。ボリュームごとに外装材も異なり、屋根も浮いているかのように設置されている。つまりこの建物は「一つのまとまり」ではなく、むしろ「あえて整理し過ぎず、部品やボリュームをパラパラと寄せ集めた」かのような印象を生み出している。それにより、内部空間が外部(地域)に開かれているように見える。内外の壁面に連続するジョリパットや、交流用のテラスは、この建物の特質を正確にサポートしている。

岩瀬幸廣(アイカ工業株式会社 常務取締役 建装・建材カンパニー長)

「組み合わせし易い・使い易い・選び易い製品開発を実施していく」
 今回で施工例コンテストも6回目の開催となったが、主力商品のメラミン化粧板・ジョリパットをはじめ、アイカテック建材のメース、新商品賞として設定したアルディカなど、409作品と非常に多くの応募を頂いた。どれも優れた作品ばかりで大変苦労したが慎重に審査した。住宅、非住宅、リフォーム・リノベーションと幅広い建築物が対象の中、白い空間を作り上げるのに複数の素材を使用していたり、家具を作り上げるのに同じ黒でもメラミン化粧板の仕上げ違いを組み合わせて表情を変えたり、ジョリパットをキャンパスの様に使い建物の個性を出したりと色々な組み合わせというものが多数見られた。今後も組み合わせし易い、使い易い、選び易いをベースに既存製品に囚われず、少しでも皆様のお役に立てる様な製品開発を継続的に行い、使用頂いた事例を発表できる場としてコンテストを継続していきたい。

●外の部屋のある処
田園風景が広がる土地開発された郊外住宅において、建物の配置をあえて角度をつけることで庭のとり方、隣宅との距離や視線、将来的な近隣の状況も考慮され、非常に工夫された構造になっている。外壁には周辺と一体化させる為に屋根同材を壁に貼り、内部まで連続する他面ではジョリパットアルファを使用するなど、素材の組み合わせ方や製品特性を活かした面での使用方法など完成度の高い建物である点を評価した。

●大磯プリンスホテル THERMAL SPA S.WAVE
大磯丘陵の上の絶景ホテルで、4階テラスや眺望サウナからのオーシャンビューと夕焼けに染まる富士山が楽しめる構造になっており、使用している素材にも拘りを持ち、心地よい解放感を創出したいという思惑通り、写真からもその解放感が伝わってくる。その演出にジョリパットネオ∞が使用され、爽快という一言が似合う作品だった。

●瑞穂のリノベーション
築40年の分譲マンション1階部分のリノベーションで、面積は広いが撤去できない分厚いコンクリート壁と梁に囲まれた個室であるなか、広々と生活したいという要望に応えた物件。壁面には墨を使用したジョリパットを採用し、そのジョリパットと調和するように造り付けソファを作製したり、インナーバルコニーを計画したりと様々な工夫が盛り込まれ、築年数を感じさせないリノベーションである点を評価した。